貧困が起こるメカニズムを解明し経済発展へと導く方策を探る 社会実装コース 国際協力研究科 市橋 勝 教授 アジア諸国の経済発展のあり方を多様な要因の比較検討から考察する

各国の経済発展のメカニズムのさまざまな要因を分析・研究

市橋先生が専門とするのは、経済学の中でも「比較経済発展論」という分野だ。
長く日本経済の発展について数量的な分析を続けてきたが、国際協力研究科に移ってからは、研究対象をアジアへと拡大。先生のもとでは中国・インドネシア・ミャンマー・ラオス・バングラディシュ・スリランカ等のアジアの国々からの学生たちが学んでおり、そうした国々の経済状況を学生たちと一緒に研究している。

「同じ途上国でも、文化も制度も違う。一方で、銀行やインフラ、教育といった共通するファクターもある。そうした異なるファクターと共通するファクターのどれがどういう風に経済発展に影響しているのかということを関心の中心に置いています」と先生。

研究の手法としては、「産業連関分析」という経済学ではオーソドックスな方法を使いたいところだが、途上国にはそうした分析の基になる統計データがあまり揃っていない。そのため、別なアプローチとして、地域横断的に、プロビンス(州や県など)ごとのデータがあればそれを「計量経済分析」という方法を用いて分析するという。

「しかし、この2つの方法だけでは実は足りないんです。そこで、実際にデータを取りに行って分析する、ということもやっています」。
これは、いわゆるフィールド調査であり、所得のレベルや家族構成、収入源といった項目を調べていくという。
「いまは、ラオスからやってきたドクターの学生と一緒に、ラオスの農村調査をやっています。これは、僕の研究テーマのひとつでもあるんですが、『貧困がどういったメカニズムで発生するのか』ということが知りたいというものなんですよ」。

大学での講義とともに、たおやかの学生と現地調査を進行中

前述のラオスからの学生は、たおやかプログラムの学生でもあり、これまでの指導を通しての感想を先生は次のように語ってくれた。

「彼はラオスの政府の役人で、彼自身、ラオスの経済をどうやって発展させていけばいいのかといった関心から、僕のところに学びにきているんですね。当初は開放政策を取った時に経済にどういったインパクトがあるのかというようなことを研究しようとしていたんですが、とにかく基になるデータがなくてやりようがない。そこで、元々関心のあった貧困発生問題について考えることにしたんです。彼には自国をなんとかしたいという想いがあるので、とても熱心に取り組んでいますよ」。

ラオスでの農村調査は現在も進行中だが、聞き取りは思いのほか難航しているとのこと。こうした手法は、経済学では最近主流になりつつあるが、実際の調査は手探りの状態だ。

「主に農業に従事しているマイノリティの農村を対象としているんですが、現地に行ってみると、明らかに豊かな家とそうでない家がある。その格差がなぜ生じたのかを考えるキーワードは、金融なんです。おそらくは、豊かな家がそうでない家にお金を貸して、その蓄積で所得格差が生まれているというのが僕たちの予測。これをデータ分析で裏付けたいと思って、いま活動しているところです」。

こうした活動は、より困難な地域に入っていって、経済発展を現場で考えようという、たおやかプログラムの趣旨にもつながるものだ。

また先生は、たおやかプログラムの教育科目としても「比較経済発展論」を担当する。これは講義を中心とする授業で、国際的な経済データと経験的なモデルを用いて、マクロ経済学の基本的な概念から計量経済学の方法の概略など、経済発展に関する基本的な理論をレクチャーする。

“これまでにない”タイプの意欲ある学生に期待

市橋先生自身、たおやかプログラムに対しては、賛同する想いが大きいという。

「いちばんの目的が、開発困難な地域をどうやって脱却させるかといったことを学際的な枠組みで考えていこうというプログラムなので、もっと早くから着手していてもよかったのではないかと思うくらいですね。そして、技術と文化それぞれをミックスしていくというアプローチと、学生が自分の専門を深めていくというアプローチの両方を満たしていく必要がある、大変欲張ったプログラムなんですね。

だから、そうしたことを意識として持っている、意識の高い学生が参加してくれることを期待しています。僕自身も、できるだけサポートしていきたいと思っていますよ」と先生。

さらに、自身の専門分野との関わりから、こうアドバイスする。

「経済の問題というのは、ひとつの問題だけ深くエキスパートになっても解決に至らない。他のこともさまざまに考慮した上で分析しないと、バランスの取れた分析にならないんですね。たおやかプログラムはまさに、専門的なことに長けているだけではなくて、いろんなことを思考しながら技術や文化を経済発展に生かしていくという意欲的な取り組みですから、従来の型や枠を超える学生が現れることを大いに期待しています。それと同時に、私自身の経済学研究も同じように広げていけるといいなと思っています」。

市橋 勝 教授
イチハシ マサル

国際協力研究科 開発科学専攻

1990.1.1~1992.3.31 高知大学人文学部 助手
1992.1.1~1994.3.31 高知大学人文学部 講師
1994.1.1~1997.3.31 広島大学総合科学部 講師
1996.1.1~1999.3.31 広島修道大学商学部 非常勤講師
1999.4.1~2010.9.30 広島大学総合科学部 助教授
2010.10.1~ 広島大学大学院国際協力研究科 教授