高速な認識・行動能力を持つロボティクス技術

石井先生の研究の中心は、「高速なロボットの目をつくること」だ。それは、人間の目に見えない現象を見ることができる目であり、単に見るだけでなく、瞬時に撮影して情報処理を行うことでセンサーとして働くというような、非常に有用性の高い技術開発と言える。

「こうした技術は、ハイパーヒューマン、つまり人間にはできないようなことをやるもので、非常に大きなインパクトを社会に与えます。産業革命の蒸気機関や20世紀のコンピュータのように、ハイパーヒューマン技術が社会を変えてきました。我々の研究も、社会にインパクトを与える革新的技術の創生を目指すものです」と石井先生。

これまでにも、人間の数十倍、数百倍速いロボットの目によって振動を見るセンシング技術は、検査等で工業応用されたり、医療応用されたり、あるいは顕微鏡下に組み込まれてさまざまな研究領域で活用されるなど、広く社会に役立てられているという。「研究のモチベーションのひとつには、『人間にあっと言わせたい』というのがあります。これは人間にはできないと思わせるような圧倒的な技術。ワクワクするようなそうした技術を開発していきたいですね」。

その一方で、“速いロボットの目”という高速ビジョン技術はなんの役に立つのかなかなか理解されないという現実もあると先生は言う。

高速ビジョン技術をさまざまな場面に役立てる

そこで、たおやかプログラムにおける先生の教育研究では、速いロボットの目を使って、主にアウトフィールドのものを見るということに取り組むという。最近では、構造物のモニタリングへの応用が注目されており、道路や橋などの老朽化が問題となっているような社会構造物の検査に高速なロボットの目を生かそうというものだ。

「例えば不良建築物の場合、見た目はキレイだけれど、揺らしてみると壊れそうなものは変な揺れ方をする。こうした人間の目ではなかなか捉えきれないところの振動まで取れるような技術に、高速ビジョン技術が当たるのではないかと思うんですね」。

対象は、社会インフラばかりでなく、文化財までも含まれる。どちらも、発展途上国では日本以上に問題が深刻だという。「高速ビジョン技術によって、安心・安全な社会づくりに貢献したいという思いが我々にもあります。さらに、高速ビジョン技術がどんな場面で世の中の役に立つのか、このプログラムを通して実証されれば大変うれしいですね」。その際には、先端技術を応用技術に落とし込むことが必要とのこと。

「先端技術を先端技術のままにせず、現場で生かし切るということが大きな課題になると思っていて、たおやかプログラムでは、そうした教育をしたいと思っています」。

現場ならではの学びをもたらす「オンサイト教育」

石井先生は技術創生コースの主任でもあり、同プログラムにかける思いもひとしおであるという。
「たおやかプログラムでは、現場を重視する中から、新しい最先端が探し出せるのではないかと期待しています。先進国にだけ最先端があると考えている学生さんがたくさんいますが、実際には、問題があるところに最先端が生まれる。キレイな場所には最先端は生まれない訳ですね」。

ここで言う現場とは、条件不利地域であり、言い換えれば、これからのビッグマーケットになる可能性のあるところだ。「ある意味、理想ではない世界でどうやって生きていくか、そうしたサバイバルな精神というのも学生さんには学んで欲しい」と石井先生。

こうした現場で学ぶ「オンサイト教育」は本プログラムの大きな特徴のひとつだ。

「最終的には、3つのコースの学生さんがひとつのチームを組み、協力し合ってやっていきます。その時、うまく連携するためにはお互いに提供できるものがなければいけない。それは単に知識だけでなくて、安心感というような人間的なものでも構いません。そういうギブ&テイクがしっかりできる人が求められる。他分野の人とも議論ができるよう、分野のバリアを外すことも重要です。技術の学生には特に、現場をよく知って欲しい」と熱い思いを語ってくれた。

石井 抱 教授
イシイ イダク

工学研究科・システムサイバネティクス専攻

1996.4.1~2000.6.30 東京大学大学院工学研究科 助手
2000.7.1~2002.3.31 東京農工大学工学部 講師
2002.4.1~2003.3.31 東京農工大学工学部 助教授
2003.4.1~2007.3.31 広島大学大学院工学研究科 助教授
2007.4.1~ 広島大学大学院工学研究科 教授