南アジアは潜在的なポテンシャリティの高い地域。交流の中から多くを学べる 文化創生コース 国際協力研究科 外川 昌彦 准教授 南アジアの宗教と社会に関する文化人類学的研究

インド社会研究にマクロな視点と学際的枠組みの確立を図る

外川先生はこれまで、インド西ベンガル州とバングラデシュにまたがる南アジア・ベンガル地域において、現地語を用いたさまざまな文化人類学的課題に取り組んできた。その詳細は次のようなものである。

まず、学生時代からインドの社会と文化に関心を持ち、インド・ベンガル地方をフィールドとした研究に取り組み、その後、文部科学省アジア派遣留学生に採用されると、インドで博士課程に留学し、現地調査を実施。西ベンガル州の村落社会での住み込み調査と論文執筆のために現地に約5年滞在したという。

帰国後は、学術振興会特別研究員(PD)として研究成果をまとめ、さらに、主要な調査地をバングラデシュに移し、西ベンガル州で得た知見を、南アジア世界の多様性やイスラーム世界と対比させることで、その検証を進める作業に取り組んだ。これらは従来のヒンドゥー社会研究を中心としたインド社会研究を、イスラームの視点を通して捉えなおすためのものであり、学際的な研究者のネットワーク構築と地域横断的な研究手法の確立をめざす取り組みと言える。

その後はより学際的な、分野を超えた共同研究の組織や成果のとりまとめへと向かい、スリランカ・パキスタン・インド・バングラデシュ・ネパールなどの多様な地域研究者による共同研究会を組織。地域や分野を超えた内外の研究者を組織することで、特に宗教的マイノリティとしての、インドのムスリム社会とバングラデシュのヒンドゥー社会との構造的な比較とその課題の検証を図った。

広島大学においても、平和研究者や地域紛争研究者との連携により、既存の地域研究の成果を、平和構築学や紛争研究などの応用的な分野に結びつける可能性に挑んでいる。

先生のこうした取り組みは、従来の地域社会研究に新たな視点と手法を確立していくためのものだ。ミクロな調査に焦点を置いた既存の人類学的手法から、地域社会をマクロな文脈に位置づけて理解する手法へ、あるいは、国家や言語に限定された既存の地域研究の枠組みから、地域・分野を超えた比較・分析の枠組みへ。それぞれの確立に向けて、先生は今後もユニークな研究活動を続けていく。

はじめてのバングラデシュ・オンサイト研修にも同行

たおやかプログラムで先生が担当している教育科目は、「南アジアの文化人類学」だ。
この講義では、さまざまな関連文献を読み解きながら、南アジアの社会、宗教、歴史といった幅広い視点から、その実情への理解を深めていく内容となっている。

一方、2015年9月に実施された第一弾となるオンサイト研修にも外川先生は同行している。
「バングラデシュの魅力をさまざまに盛り込んだ5日間のプログラムを私自身がデザインしまして、参加者には大変好評でした」と先生。その中には、世界遺産見学などとともに、条件不利地域である農村に暮らす女性たちに接して、彼女らが抱える問題を実感する場面があったり、隠された文化遺産と言われる仏教僧院跡を訪ねて、そこをターゲットとして学生たちに課題を投げかけるといった展開が用意されていたという。

「今回はトライアルでもあり、ちょっとマニアックだったかなとも思いますが、他大学ではここまではできないという自信のある内容」と先生は胸を張る。この研修ツアーは企画の新規性が地元からも注目され、現地の新聞にも取り上げられたという。

「バングラデシュの全体像が理解できるよう短い期間にダイジェストされた内容です。それを自分の専門にどう結びつけていくかは学生たちへの課題。学生たちは事前勉強会も何度も重ねて、自分がそこで何ができるかということを考えながら参加していますから、フィールド経験を経て、これからその答えが出てこようとしています」。

例えば、前述の文化遺産について、文化系の学生はどうやって地域開発につなげていくか、技術系の学生は電子工学等を使ってこれをどう保全するか、という風に、それぞれのコースに結びつくテーマが導き出されていくと期待されている。

他では体験できないコンテンツを提供できる自信のプログラム

たおやかプログラムに対して、先生はこれまでもさまざまな場面でそのアピールに努めてきている。その胸中にあるのは、学生たちへの熱い想いだ。

「我々大学側は学生にいろいろな機会を提供し、彼らはその機会を通して自分の能力を見つけていく。そうした中で国際化というものを体験し、自分でチャレンジしていったり、自身の間口を広めていくということもできてくると思うんです。そういった狙いでこのたおやかプログラムもデザインされていますから、ぜひさまざまな学生たちに参加してもらいたい」と外川先生。

先生は、グローバル化の進展とともに、多くの大学でもアジアに出かけていく教育コンテンツが増えているなかでも、いかにその国の社会に深く根ざして、そのおもしろさとその中にある課題にどこまで触れられるかというところがポイントになると指摘。このたおやかプログラムには、そうした意味での優位性があると評価する。
さらに、「たおやかプログラムの舞台となるエリアはまさに、私がこれまで研究対象としてきた地域と重なるので、私自身の知見を大いに生かしていきたい」と意気込んでいる。

また、舞台となる南アジアの国々の魅力についてもより多くの人々に知ってもらいたいというのが先生の願いだ。
「バングラデシュやインドなどは大変活力のある社会で、人間がおもしろいと私は思っているんですね。日本社会が近代化、均質化していったなかで、それとはまったく違う背景がある。だから、交流していて非常におもしろいんです。日本とは補い合って多くの相乗効果を生み出せる、すごくいいパートナーになり得る国々だと言えます」と絶賛。現地とつながりの深い先生ならではのネットワークも大いに生かされた同プログラムを通して、こうした国々に触れ、学生たちがいっそう大きく成長してくれることを願っている。

外川 昌彦 准教授
トガワ マサヒコ

国際協力研究科 教育文化専攻

2016.4.1 ~ 東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所 准教授
2000.7.1~ 広島大学大学院国際協力研究科 准教授