INTERVIEW
生体システムの解明とヒューマン・インターフェースの開発
サイバネティクス理論で
人間と機械を結び
途上国と先進技術の
融合をはかる
技術創生コース
先進理工系科学研究科
辻 敏夫 教授
生体システムの解明とヒューマン・インターフェースの開発
ヒューマンサイエンスと電気電子工学および医学の融合
辻先生が代表を務める「生体システム論研究室」では、人間と機械が協働できるような世界を目指して、さまざまな研究が進められている。
「我々は人間の身体を調べるところから始めます。人間の身体の仕組みや全体を司る脳を調べて、それに見合ったロボットを作っていく。人間にとって使いやすく役に立つ、そうした機械のあり方を考えていきたい」と辻先生。
同研究室は大きく以下の5つに分かれている。
■筋電グループ/筋肉と電気信号を使って電気的に機械をつなぐ「義手」に代表される研究
■ソフトコンピューティンググループ/生き物が持っているアルゴリズムを工学的にコンピュータで実現し、機械の中にいれる「人工知能回路」の研究
■A-Lifeグループ/多様な生き物のモデルをコンピュータ上につくる「人工生命」に関する研究
■生体グループ/人間が使いやすいロボットの研究。マツダとの共同研究で自動車開発の一翼を担う
■メディカルエンジニアリンググループ/医工連携によるさまざまな研究。産学官連携での新たな診断支援システム等の開発にも携わる
こうしたさまざまな研究が目指すのは、「人間と機械が融合することで生まれる、思いもよらない効果」だ。 例えば、義手の中に人工的な“脳”を埋め込んで、機械の方が人間に合わせてプログラムを作り直す。そんな賢い義手が生まれるのもサイバネティクスという分野であるという。
辻先生は、「いろいろな外部の人とふれあうことで、そうした『思ってもいなかったことを見つける力』=“セレンディピティ”を実感する機会に巡り合うんです。そういうところがこうした研究の魅力ですね」と微笑む。
人間も機械も同じ土俵で考える「サイバネティクス理論」
たおやかプログラムで辻先生は、「サイバネティクス工学特論」を担当する。
サイバネティクスとは、生き物と機械の制御の仕組み等を統一した原理で扱うという学問で、アメリカの数学者ノーバート・ウィーナーによって提唱されたものだ。
「サイバーやサイボーグといった言葉もサイバネティクスの概念から生まれたもの。サイバネティクス理論は、人間が関わる全ての分野に成立する考え方なんです」と先生。
この講義では、そうした考え方や具体例を学び、最終的には論文発表も行われる予定だ。
「例えば、携帯電話の機能は本当に人間の身体のことを考えてデザインされているのかという風に、身のまわりのものを見直してみるという姿勢を身に付けて欲しい。21世紀の工学はやはり『人間のため』というのが前面に出されるべきですからね。無駄な機能が付いてやたら高額な医療機器などもいい例です」。
また、この教育研究を通して学べることには、3つのステップがあるという。
「ひとつは、問題を理解する力。二つ目には問題を解決する力。三つ目には問題を発見する力。この3つについて、できれば博士号を取る人にはぜひ身に付けて欲しいですね」と先生は言う。
特に3番目は意外と難しいが、これこそが研究や新たな発明につながるとのこと。
「特にオンサイトでは、発見が山ほどあると思います。それらを見逃さない力をまずは磨いて欲しいですね」。
新しいものを作りだす力はオンサイトでも応用されると期待
辻先生は文理融合というスタイルの取組みにも豊富な経験があり、本プログラムでもその教育効果に賛同を寄せる。
「たおやかプログラムでは、途上国と先進技術を“つなぐ人材”が大事だと思いますね。それによって、世の中が変わっていく可能性がある。同時に、学生たちのマインドが磨かれていくことにも大いに期待しています」と辻先生。
「私自身、おもしろいもの、人とは違うことをやりたいという思いで研究を続けてきて、最後には、医工連携によって、患者さんの役に立つものを作りたいと願っています。学生たちも、自分の専門分野に閉じこもらず、人がやることも手伝いながら、積極的にまわりに関わって、新しいものを作っていく。そういうマインドを養う場にしてもらいたい」。
さらに先生は、前述の医工連携の研究から生まれた、病気を簡単に発見できる機械を、できれば条件不利地域に持っていきたいと考えているという。
「病気の可能性をスクリーニングで見つけ出せるような機械を作りたいですね。そして、たおやかの学生も研究室の学生同様、我々にとっては家族の一員。チームとしての研究活動を通して、さらに成長していって欲しいですね」。
辻 敏夫 教授
ツジ トシオ
先進理工系科学研究科・先進理工系科学専攻・電気システム制御プログラム
1985.4.1~1994.4.30 広島大学工学部 助手
1992.10.1~1993.7.31 イタリア共和国ジェノバ大学客員教授
1994.5.1~2001.3.31 広島大学工学部 助教授
2001.4.1~2002.3.31 広島大学大学院工学研究科 助教授
2002.4.1~2020.3.31 広島大学大学院工学研究科 教授
2020.4.1~ 広島大学大学院先進理工系科学研究科 教授