動物地理学の視点からオンサイト・リバースイノベーションのシーズを探す 
              文化創生コース 文学研究科 笛吹 理絵 助教 観光地を中心に人と動物の関係性を地理学的に研究

日本におけるワイルドライフツーリズムのあり方を考える

「人と動物の関係性の地理学」というあまり耳馴染みのない学問分野が、笛吹先生が専門とするところである。

「わたしの場合は、観光地での人と動物の関係、動物の管理や、観光客がどういう風に動物を見ているかといったこともすべて含めた、人と動物との関係性を地理学(特に“新しい”動物地理学)の視点から研究しています」と語り、「“新しい”動物地理学の特徴は、動物を主体的な存在として捉えることにあります。つまり、動物は単なる物としての観光資源ではなく、自分の意思を持った存在であるという考えが根底にあります。そのため、人間中心主義的な考え方に批判的な立場をとり、人間社会がいかに動物に配慮し、共生していけるかが動物地理学の一つの大きなテーマとなっています」と解説する。

現在の研究の中心となっているのは、瀬戸内海に浮かぶウサギの島「大久野島」だ。いまや世界的に知られるこの島では、オーバーツーリズムの弊害が見られるようになってきたと言い、先ごろ、テレビ取材も受けたばかりだ。

「大久野島では、インバウンドの観光客が急増したために、彼らが持ち込むエサが過剰になり、ウサギの個体数も激増しました。元々、なわばり意識が強いウサギは、気性も荒く、激しい喧嘩の傷跡を抱えた個体が見られることもしばしば。さらに、管理がきちんとされていないので、余ったエサが腐ったり、ウサギが病気になるなど、さまざまな問題が起きています」。

先生は、こうした島の現状をつぶさに調査し、人とウサギのより良いあり方を探っていこうとしている。

メンター初参加ながら、自身の経験を生かした助言を

先生は現在、たおやかプログラムで、「地域文化創生論」、「オンサイト研修」、「オンサイト・コース・ローテーション」の3科目を担当している。

まず、「地域文化創生論」では、フィールドワークを通して、地域文化とは何か、それを学ぶ必要性は何かを議論するとともに、フィールドワークの方法についても学んでいく。
また、今年度のオンサイト研修は、8月に呉市御手洗地区で3泊4日の日程で実施。履修1年目の学生が日帰りで行く『オンサイト・コース・ローテーション』では、竹原市の大久野島と忠海を訪問した。

今年がメンター初参加となる笛吹先生だが、実は、このたおやかプログラムの第3期修了生にあたり、御手洗地区は、自身がオンサイト・チーム・プロジェクトを実施した思い出の地であるという。

「私がオンサイト・チーム・プロジェクトを実施したときに、何をすればリバースイノベーションと言えるのか疑問を持つようになりました。手法もあまり確立されていなくて…」。

そこで先生は、たおやかの学生は知っておいたほうがよいと思われることを授業に採り入れようとしている。

「インタビューのやり方はもちろん、シンプルな対話を通して当事者主体の学びと気づき、行動変化を促すようなコミュニケーションスキルである、『メタファシリテーション』というようなものも、なるべく採り入れるようにしています」と先生。
「これは、私が学生の時に、前任の先生が紹介してくれた手法で、たおやかの学生には是非、習得してもらいたいスキルです」。

オンサイト以外の授業も実践的に。かつ事前情報は必要最小限に

先生の授業の特徴は、大きく3つある。

1つは「実践的」。本来は座学中心の上記の講義も、「東広島市の課題解決」というテーマを学生に与え、学生自らがリサーチしたうえでディスカッションを行うといった流れになっている。
「実際に、東広島市でおこなわれている『地域課題研究懸賞論文募集』と授業をリンクさせる形で半プロジェクト化しています。最終的には成果を論文としてこれに応募してもらいます」と先生。

2つめは「事前情報は必要最小限に」。狙いは、オンサイト・コース・ローテーションに参加する学生たちに、「自らの視点から、その地域の課題を洗い出す」という経験を持たせることにある。

そして、3つめは「ディスカッションを重視」している点だ。

また、自分自身がこのたおやかプログラムから得たものとして、「視野をすごく広げてくれました」と微笑む。
「オンサイトチームプロジェクトは大変でしたけれど、たおやかの経験があったからこそ、全体像が見えたうえでの議論ができるようになりました。それは、大変プラスになったと思いますね」。

「リバースイノベーションとは何かを考えるきっかけにもなった」と言い、学生たちにも、このプログラムを通して、有意義な経験を期待し、次のような言葉を贈る。

「多くの学生が、私と同様に、『地域貢献』を目指していると思いますが、実際には、貢献できることというのはほんのわずかで、無力感を覚えることもあるかもしれません。そこで、こんな風に考えてみて欲しいんです。自分たちができること、やろうとしていることは、その地域に合った『種』を探すことで、それを撒いて育てるという作業は、地域の方々がすること。あくまでこれは地域の方々との共同作業なんだと。こう考えて臨めば、オンサイトですべきことが、おのずと見えてくるのではないでしょうか」。

笛吹 理絵 助教
ウスイ リエ

文学研究科 地表圏システム学講座(地理学分野)

2015.10.1 広島大学大学院総合科学研究科 入学
2016.4 たおやかプログラム履修生として入学
2019.3 広島大学大学院総合科学研究科修了 博士号取得(学術)
2019.4.1~2019.4.30 広島大学大学院文学研究科 特任助教
2019.5.1~ 広島大学大学院文学研究科 助教