条件不利地域―― それは必ずしも辺境の地ではなく我々自身の中にある 社会実装コース 国際協力研究科 吉田 雄一朗 教授 公共政策の経済モデルや社会インフラの生産効率に関する研究

交通を切り口に普遍的な法則の発見に挑んでいく

吉田先生の専門は、交通経済学および応用計量経済学という分野だ。

「科学というのは根っこがひとつ。思いもよらないところにつながっているのがおもしろい」と語る先生だが、この道に進んだきっかけについては次のように教えてくれた。

「僕は中学から慶応で学んできたんですが、その慶応義塾の精神について、恩師が話してくれたことがあったんですね」。
それが、慶応伝統の『実学の精神』であったという。

「実学というのは、ポジティブサイエンスを訳した“実証科学”を略したもの。これは、主観的な自分の仮説を常に批判的かつ謙虚に捉えて、検証の波に洗わせ続けるというものなんです」。

この話を聞いた先生は、経済学でも科学者になれると感じたとのこと。また、先生の背中を押すことになったものがもうひとつあったという。

「これもその恩師のことばなんですが、誰でも食っていくためには頭を下げなければいけないし、スポンサーがいないと食っていけない。科学者にとって何がスポンサーかというと、『科学者のスポンサーは人間の知的好奇心だ』と先生は言うんです。何故だ?どうしてだ?と思うその気持ちだけが科学者を存続させている。これを聞いたときに僕は、カッコイイ!科学者になろうと決意しました」。

こうしたことから先生は、経済学を広い意味で実証科学と捉え、科学者として研究の道を進んでいるのだという。

「実際にいまの経済学は、お金だけに頓着することなく、人間行動全体を考える学問になっています」と先生は言い、そこから目指すものは、普遍的・本質的な法則を導き出すことであるという。

「そうした普遍妥当的なものがあるのであれば、何を切り口にしたって、そこに到達できるはず。だったら、自分の好きな『交通』をやろうと思った訳です」。

そして、いつかは「交通から進んできたのに、こっちの問題を解いちゃって、これで途上国の問題が全部片付いちゃう!みたいなことになる」のを狙っているそうだ。「科学というのは根っこがひとつですからね」。冗談めいた話をしてはニヤリと笑う吉田先生だが、その目はどこまでも真っ直ぐだ。

途上国の発展に寄与する開発政策を経済学的観点から分析する

吉田先生はこれまで、経済学の観点から、途上国の発展のために必要な公共政策や開発政策などについて研究を続けている。そんな先生がたおやかプログラムで担当する教育科目は、『経済開発政策特論』だ。

「経済学の観点からというのは、現状と理想、それらを結び付ける政策の3つの融合として捉えるということです。現在、途上国は過去の日本と同じように、多くの問題を抱えています。その問題というのは一見するとそれぞれが異なるものの、じつは本質的には同じ構造を持っていることが多いんですね。さらにそれらはその構造ごとにいくつかの市場経済の失敗として類型化することができます。そのうえで、それぞれの途上国に固有の背景を考慮した分析を行うことによって、問題解決と発展に向けた非常にきめ細やかな政策、いわば、開発の処方箋を書くことができると考えています」。

この授業では、さまざまな経済開発政策をとりあげながら、こうした類型化や分析を展開。世界の国々からやってくる留学生たちが多くを占めることから、彼らの中の問題意識も共有するため、ディスカッションや発表などのスタイルも盛り込まれる。

また、先生のもとには現在、たおやかプログラムで学ぶ学生が1名いる。彼が論文作成に向けて取り組んでいるのは、日本の鉄道会社のひとつ、現JRの国鉄時代と民営化後のサービス水準の比較分析だ。

「例えば、1982年の時刻表をもとに、東海道線の各駅から東京駅まで、何時に出て何時に着くか、乗り換えの待ち時間はどれくらいかを24時間分抽出する作業を延々やっているところです。これはなかなかしんどい作業なんですが、彼は非常に真面目に取り組んでいますよ」と先生。

オンサイトへ出かける以前に、まず問うてみて欲しいこと

一方で、たおやかプログラムがフィールドとする条件不利地域について、先生は次のような見解を持っているという。

「条件不利地域というのは、たおやかプログラムが取り上げている南アジアや中四国の中山間地域・島しょ部だけには限りません。むしろ、世界中至る所にあるし、もっと言えばそれは、我々の頭の中にあるんですよ」。

こうした見解は、前述のJRのサービスに関する研究にも通じることだと先生は言う。

「4月からは電力の小売りが全面自由化しますが、こうした規制改革というのは、経済社会の構造改革を進めるために行われるんですね。そこに至るまでは競争がなく、サービス水準が低いままであることが多い。しかし、多くの国民はそこに気付かないまま、高い電力を利用してきた訳です。そうした意味で、我々の頭の中に“条件不利地域”はある、と言えるんです」と先生は力を込める。

そして、オンサイトで得られるものへの期待とは別に、オンキャンパスの間に学生たちには、そうした側面へも大いに意識を向けて欲しいというのが先生の想いだ。

「途上国の状態が少しでも良いものになっていくよう、問題解決の処方箋を見つけていく力を学生たちにはしっかり身に付けてもらいたい」と学生たちのこれからにエールを送る。

条件不利地域――
それは必ずしも辺境の地ではなく我々自身の中にある

吉田 雄一朗 教授
ヨシダ ユウイチロウ

国際協力研究科 開発科学専攻

2001.9.1~2005.3.31 国際大学 講師
2005.4.1~2006.3.31 政策研究大学院大学 助教授
2006.4.1~2013.3.31 政策研究大学院大学 准教授
2013.4.1~ 広島大学大学院国際協力研究科 教授