社会問題の解決に必要なものはそこでの生活および実際に暮らす人々への理解から 社会実装コース 国際協力研究科張 峻屹 教授 市民生活とそれに関わる諸事象を人間行動の視点から研究する

市民生活を良くしていくという視点から諸々の対象を考える

張先生の専門は、交通計画や交通工学、地域都市計画、環境・エネルギー政策、観光政策、市民生活行動学など。こうした分野から研究テーマを幅広く取り上げ、学際的に研究を進めている。フィールドは先進国にも途上国にも及ぶ。なかでも中心的な研究は、「市民生活行動学」だ。

これは、非常に学際的であるとともに、ローカルな問題から地球温暖化といったグローバルな問題まで、幅広い領域を扱う新しい学問体系である。

「例えば、交通は移動手段。移動は生活を支えるもの。したがって、交通政策は生活の質の向上に寄与するものであれば良いものとなるし、そうでなければ要らない。道路の整備の結果、生活が良くなるならやればいいという風に考えるべき」。

先生はこうした基礎理論に基づいて、部門横断的に地域や都市づくりを取り上げ、研究を進めている。

昨年度のたおやかプログラムでは、ある学生がこれに関連した研究を行っている。バングラデシュの沿岸地域の人々が、自然災害の影響を受けてどのように移住し、どう生活が変わってきたかを調査したものだ。

「うちのグループのやり方は、実際の住民の声をFace to Faceでインタビューして調査したり、アンケート調査を行って、それらを分析して理解していくというもの。そして、その結果をプランニングや政策などに反映していくのが我々の使命と考えています」と先生。

来年4月からは、バングラデシュからやってくる学生に、このテーマを引き継いでもらって、一緒に続けていく計画という。

「我々はいわゆる交通屋さんなので、交通だけを考えれば、洪水に遭わないように道路を高くするというような施策が出てきますが、これにはお金がかかってつくれない。でも、人々は移住するので、そこを考える。ここからが『市民生活行動学』の考え方が生きてきて、人の意向が生活を良くすることにつながっていく。そんな風に、大変興味深い研究と言えます」。

地域や都市づくりの手法を学べる講義。自身の経験も役立てたい

先生がたおやかプログラムで担当している教育科目は「地域都市工学」というもの。これはいわゆる地域づくり、都市づくりのやり方を教える授業だ。先生が講義したのち、学生が輪読し、演習を行うというスタイルで、最終的には、問題が起きた際に、学んだことを応用して、その解決策を探っていく力の習得を目指している。

「これは特別に条件不利地域のことだけを考えている授業ではありませんが、適用場面として条件不利地域は十分に考えられます。そこで、私のやり方を学生たちにレクチャーして、そこから一緒に取り組んでいきたいと思っています」と張先生。

先生はこれまでも多くの教育プログラムのメンバーとしてさまざまに尽力してきた経験を生かし、このたおやかプログラムに対しても、円滑な展開と多大な成果を期待しているという。
そして、これからも同プログラムにどんどん参加して欲しいとメッセージを送る。

「特に日本人学生にもっと参加してもらいたいですね。最近は自分の得意分野にしか興味がないひとが増えていますが、たおやかプログラムでオンサイトに参加して帰ってくると、まわりが見えてくるんですよ。そこがひとつ、おもしろいと思います。自分の将来の道が広くなってくると思うし、キャリアデザイン形成にも役立ちます。そうした視点で入ってきてもらえるといいと思います。

また、一番まずいのは、途上国の学生だからレベルが低い研究をやるというような発想があること。これは大まちがいですよ!人の能力は無限大ですから、どこの技術だろうと、チャレンジしていい研究ができる。

目標を高く持って挑戦する留学生を、我々は応援します!!そして、日本のいいところも悪いところもたくさん学んで欲しいと思います」。

先生の指導学生のひとりは現在、北広島町でのトマト栽培を通して地域振興を図るというプロジェクトに参加しており、その進展を熱く見守っている。

たおやかプログラムにつながる研究も多く、対象地域も重なる

現在、先生が進めている研究テーマは複数あり、対象となる国ごとに研究内容にも違いがみられるが、そのどれもがたおやかプログラムとうまくリンクする内容となっている。

①バングラデシュにおける「気候変動災害と適応策(移住を含む)」、「社会的排除と交通」、「市民生活行動学の応用研究」
②ネパールにおける「農村地域の生活と交通環境」
③日本における「生活と移住(ドイツとの比較)」
④中国における「新型城鎮化政策と農民工の研究」

このほか、インドもこれからの研究対象として考えられているとのこと。
「バングラデシュでの研究は、たおやかプログラムの学生と一緒に進めているものです。前述した災害と移住の問題のほかに、『社会的排除』という問題にも取り組んでいて、これはコロンビアでも同様に行っています」と先生。

先生によれば、「社会的排除」というのは、低所得であったり、住んでいる場所が悪いことで、みんなができることができないというもの。そこで、「そのひとが本来受けるべき社会的サービスを受けさせるための政策作りが我々の使命」という考えに基づいて、これを交通環境の改善でなんとかできないかと研究している最中という。

「例えば、辺ぴな所に居ても、IT技術をうまく使って情報通信をすることによって、遠隔医療だって可能になる。これは、まさにたおやかプログラムの中身と合いますよね。技術からサポートしていくことに加えて、我々、社会実装グループが、地域づくり・まちづくりを通して支援するというように」。

しかし、ここで注意すべきなのは、“文化が異なる”ということだと先生は言う。

「ネパールや日本だと、同じ農村地域でも状況が異なります。そのあたりを、それぞれの地域の特性を考えてやっていく必要がある。だから非常に難しいんですよね。そのために、ヒヤリングに行って、ひとの行動や思いを吸い上げて理解して、という風な作業が重要になってきます」。

たおやかプログラムの3コースの連携は、こうした3つの側面からのアプローチにほかならない。

「たおやかでいうところの『柔軟に枠組みをつくって連携する』というのは、部門横断的なこと、つまりは文理融合ですからね。それは私自身の研究の特徴でもあります」と先生。
先生は今後もこうした学際的な研究に積極的に取り組んでいく。

張 峻屹 教授
ZHANG Junyi

国際協力研究科 開発科学専攻

1996.4.1~1998.3.31 広島大学工学部 助手
1998.4.1~2000.3.31 都市・交通コンサルタント
2000.4.1~2001.3.31 オランダ・アインホーヘン工科大学 客員研究員
2001.4.1~2002.9.30 都市・交通コンサルタント
2002.10.1~2011.9.30 広島大学大学院国際協力研究科 准教授
2011.10.1~ 広島大学大学院国際協力研究科 教授