
INTERVIEW
リモートセンシング技術で草地生態系を守る研究
人手の及ばない
エリアの上空から
眺める先進技術が
変えていく
国立研究開発法人
国際農林水産業研究センター
川村 健介 主任研究員
リモートセンシング技術で草地生態系を守る研究
衛星リモートセンシングによる草地生態系の観測と管理

「草地生態学」――耳慣れないこの学問が川村先生の専門分野だ。「草地」には、モンゴルのような自然にできた草原と、ニュージーランドやオーストラリアのような人工的な草地の2種類があるが、いずれにも共通するのは、草本植物が優先する生態系であるということ。そして、草地の生態系の環境を保全することがこの学問の目指すところだ。
「具体的な研究内容をお話ししますと、前者の草地に関しては、『内蒙古草原の砂漠化を止めようという取り組み』を、後者に関しては、『人工草地の生産性の向上もしくは環境の保全』といったところを扱っています」と川村先生。

先生の研究で特徴的なのは、リモートセンシングという工学の技術を活用することだ。
「草地・草原の管理を目標に、それを効率化するためのツールとして、リモートセンシング技術を使います。分かりやすく言うと、天気予報で雲の動きを見せますよね。あれもこの技術のひとつで、人工衛星に載っているセンサーで、地球上の対象物を観測する訳です」。
この技術を使えば、草地の牧草の状態を管理したり、内蒙古の牧草の収量を地域あるいは国レベルで管理・評価することなどが可能になるという。

「こういった用途から、リモートセンシングは“環境ののぞき屋さん”と呼ばれているんですよ」と先生はニヤリ。
研究室では、リモートセンシングにGPSやGIS(地理情報システム)を応用して、家畜の行動をモニタリングしたり、さらには、3Dセンサー等を使って、家畜の3次元形状から健康状態や生育状態を調べる試みも始まっている。
調査から分析まで具体的な研究手法を身に付ける
たおやかプログラムのカリキュラムにもこの「草地生態学」があるが、主にリモートセンシング技術を重視して展開していく計画という。
「特にこの技術は、なかなか人が入れないような場所に非常に有効なツールなんですね。ですからたおやかプログラムでは、これを使って、そうした条件不利地域の資源管理や環境保全に役立てるというのが大きなテーマになります」。
授業ではもちろん、リモートセンシング技術だけでなく、フィールド調査法や生態系データ解析のノウハウを習得するとともに、草地生態学の研究手法についても詳細に学んでいくこととなる。
その中身は工学系と生物系の複合分野であるため、受講する学生は工学系の学生と生物系の学生がやることの両方をやっていく必要があると先生は言う。
「昼間は現地に行ってデータを取り、夜は得られた画像を処理・解析し、プログラムを書いていくといったスタイルになりますね。講義、野外実習、データ解析演習と内容は盛りだくさんです」。
そして、出かけていくフィールドは、国内では島根県など、中国地方の中山間地域、海外ではバングラデシュの水稲地域が中心になりそうだという。
「例えば中国地方の中山間地域の場合、平地は水田に使われるため、草地は山奥に小さくつくられます。最近ではそうした草地もしくは耕作放棄地とされた場所で牛を放牧していて、そこにリモートセンシング技術が活かされる。これは牛の移動を見るだけでその土地が管理でき、エサ代もかからないという画期的な方法。こんなところに出かけていくことも考えています」。
ハードワークに見合うだけのサポートのあるプログラム

同プログラムに臨む学生に対して、「ひとつはスペシャリストであるべき」と先生は言う。
「分野をまたぐ時に、それが武器になります。そしてそれにプラスする力を身に付けていく。うちで学ぶ学生でしたら、リモートセンシング技術のスペシャリスト、プラス、ソーシャルもしくはカルチャーに関する研究ができる、というのが理想ですね」。
そのうえで、分野をまたがる学びがたくさんあるため、「ハードワークである」と断言する。
「しかし、本当のところはハードだとは思わないですね。やること、学ぶことはたくさんありますが、それだけのサポートが受けられるプログラムですから」と川村先生。さらには、「『人の3倍努力する』というのが私のポリシーです」と微笑む。
また、同プログラムに参加するにあたって、文理融合という点への思いを尋ねてみると、「私自身、分野融合的なことはずっとやってきていますが、文系の方と一緒に研究するというのは初めてのこと。最近、そうした先生方と会話する中で感じたのは、“哲学の違い”なんですね。それに少しとまどっているところは正直あります」とのこと。
「物事の考え方に差異はあれど、そこをお互いに受け入れていくなかで、新たに見出せるものがあるはず」と期待する。
川村 健介 研究員
カワムラ ケンスケ
国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター
2004.4.1~2006.3.31 岐阜大学流域圏科学研究センター 日本学術振興会特別研究員(DC2)
2005.7.1~2006.3.31 AgResearch (New Zealand) 客員研究員
2006.4.1~2008.6.30 (独)農業環境技術研究所 生態系計測研究領域 日本学術振興会特別研究員(PD)
2007.10.1~2008.6.30 AgResearch (New Zealand) 客員研究員
2008.7.1~2016.3 広島大学大学院国際協力研究科 准教授
2016.4~ 国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター